古畑名シーンAdvent Calendar2014 Vol.03 ―第18話『偽善の報酬』より

古畑名シーンAdvent Calendar2014 3日目にして早速1日休みました私です。

古畑任三郎の放送開始時、私は小学生でした。多分いまの小学生は夜9時10時台のテレビ番組も普通に見てるんでしょうが、当時、とくに我が家はきっちりしていたので、平日は9時以降にテレビを見ていると怒られました。
なので、やっていることは知ってましたが、私が古畑シリーズをちゃんと見ることができたのは、翌年夏休みのお昼にやっていた再放送でした。

そしてその翌年、中学1年生の時に2ndシーズンが始まります。

古畑シリーズの脚本には、小学生や中学生には難解なシーンや心理描写というのがけっこうあって、大人になった今見直すと、当時分からなかった作品の深みに気付いたりできるものです。

今回取り上げるのは第18話。2ndシーズンの5話目として制作された『偽善の報酬』です。(そもそも『偽善の報酬』というタイトル自体、中1には難解すぎます。)

ゲストの加藤治子さんは品の良いおばさま、おばあさまの役が板につく、とっても素敵な女優さんです。TBS系『浅見光彦』シリーズのお母さん役のイメージが強い人も多いのではないでしょうか。
あとは『魔女の宅急便』のニシンパイのおばあさんの声とか。
(そうそう余談ですが、それまでドラマとか見てきてない私は、古畑を通じていろいろな役者さんの顔と名前を覚えましたね。古畑の出演者が出ているからっていうので別のドラマを見て、それで別の役者さんのことを覚えたり…)


加藤さん演じるベテラン脚本家・佐々木高代は、昔から仲の悪かった事務所のマネージメントを担う実の妹を撲殺。変質者の犯行を装いますが、一瞬で古畑に見破られてマークされます。

いつものパターンとちょっと違うのが、古畑は高代の部屋を出てすぐに、今泉に「やったのはあの女だよ」と教える点です。「凶器さえ見つかればこの時間は解決だ」と、ボディーガードという名目で古畑を高代の家に泊まらせ、凶器探しを命じます。
視聴者としては、ポイントが絞られていてとてもわかりやすいですね。

凶器は「袋に詰めた小銭」で、この回は解決編の前にトリックを当てられた人が多かったのではないかと思います。
「ピーマンの肉詰め」というヒントもわかりやすかったですし。


さて、本題である大人の視聴ポイントの話に移ります。

この話で注目すべきは、「ベテラン脚本家の哀しみ」が実に上手に描かれているという点です。

佐々木 高代は数々の有名俳優を育てた「芸能界のお母さん」的な存在。
芸能界の華やかな部分をしっかり謳歌し、お金遣いは派手、人使いは荒い。
かたや妹の和子はきっちりした性格。
普段はお金に細かい守銭奴。でも、助成金や基金へのお金はどーんと出す。
おそらく「佐々木高代ブランド」を演出するための、和子なりの戦略なのでしょう。

高代も和子も60を過ぎて独身二人暮らし。

若い俳優にほのかな恋心を抱く高代。この世界じゃあんたは笑いものだとなじる和子。
事務所の懐事情は厳しいから私用の金は出せないという和子。自分が稼いだ金どうして自由に使えないのよと訴える高代。
助成金なんかやめちゃえばいいのに、とつっかかる高代。いまさらやめるわけにはいかない、いい恥さらしだ、と反論する和子。
さっさと死んじまえばいいのに、と吐き捨てる高代。あんたが死になさい、と返す和子。

高代「ねぇ和ちゃん…子供の頃から言おう言おうと思って言えなかったことがあるの」

和子「何よ」

高代「あんたとは…合わないわ!」

(倒れ込む和子)

事件後の高代ですが、供述は支離滅裂で、古畑でなくともすぐに目をつけられたことでしょう。

それでも、捜査でやってきた古畑と話す高代は終始嬉しそうです。

おそらく、普段仕事以外で話せる相手がいないのでしょう。寄ってくるのは高代ブランドを利用したい人間ばかり。

見舞いに来てくれた意中の新人俳優の帰り際、彼の車の助手席に若い女の姿を見つけた時の高代の哀愁に満ちた表情がとても印象的です。


ここからは完全に私の想像ですが、仮に高代が逮捕されずにその後も脚本家として活動し続けた場合、彼女は今までと同じような地位でいられたでしょうか。

 

和子を失った高代は、おそらく業界から干されてしまうのではないでしょうか。

“わがままお嬢様”な高代が脚本家としての地位を確立し、テレビ局や制作会社からの信頼を築き上げていけたのは、決して高代の才能ゆえ、だけではなかったでしょう。

マネジメント業務だけでなく家事全般もこなしていた和子。高代一人では身の回りのこともままならないでしょう。最初はお手伝いさんに任せるでしょうが、わがままで人使いが荒い高代のことですから、お手伝いさんが音を上げて長続きしないのではないでしょうか。もしかしたらちょっと気に入らないことがあれば、高代の方からクビにしてしまうかもしれません。

そうこうしているうちに蓄えも底をつき、寂しいおひとりさまの老後が待っていたのではないでしょうか。

 

高代は自白後、なんと古畑に見逃してくれと嘆願します。

高代「私はもうおばあちゃんです いい年をして あちこち連れて回られたり、裁判にかけられたり とても耐えられそうにないの もしもね、あなたに少しでも年寄りを憐れむ気持ちがあるんなら…だったら今泉さんもまだ…」

古畑「先生、先生にはそんな台詞似合いません 先生のドラマの登場人物はいつだって堂々としてました 先生もそうあってください」

高代「いいわ 今の話は忘れて」

かくして佐々木高代は潔くお縄を受けたのです。

加藤治子さんの上品さでとてもエレガントでスマートな犯人に映りましたけど、こうして書き起こしてみるとひどい女ですね^^;

■まとめ
成功の理由は決して自分の力だけではない。
間接的にしろ、目の上のたんこぶの誰かのおかげかもしれない。

##おまけ

この日のスピンオフドラマ『今泉慎太郎』では、このように凶器が消えちゃう系王道トリックを、科研の桑原くんがいくつか紹介してくれます。
小学5年生の時、教室の本棚になぜか揃っていてむさぼるように読んだ藤原宰太郎さんのトリック本シリーズを思い出しました。
懐かしいので中古本買ってみようかな。。。